ぺんぎんのお話

「セミ君の冒険」

イラスト 土の中のセミと色んな生き物たち

真夏の土の上、青い葉の茂る木の下では何やらヘンテコな穴ぼこを見ることができます。土の中で成長したセミが出てきたからです。そういったセミ達は幸運だったと言えるでしょう。みんなが成虫になれるわけではなく、穴の中でモグラやオケラが食べちゃうこともあるからです。それに出てこようとしたら土の上が道路になっていた、なんてこともあるのです。

「うーん、固いな。これじゃ出られないや」

そう言いながら一匹のセミが土の下からコツコツ、分厚いコンクリートの壁を叩いておりました。回りの生き物たちも動けなくなったり、弱っている様子です。

「あら、セミ君。どこにいくのかしら?」

しわしわになったミミズさんがそう聞きます。セミ君が今度は下にむかって穴を掘り始めたからです。

「どこって?うえがダメなら下に行くしかないじゃないか」

セミ君がそう答えるとあちこちでくぐもった笑い声が聞こえてきます。

「そんなことしたって無駄だと思うけど」

ミミズさんは眠たそうにそう言って、くるまってしまいました。一方、セミ君は下へ下へと穴を掘り続けました。でもちょっとずつしか進みません。しかも何があるかも、どうなっているかもわからないのです。

「おい、そこにいるのは誰だ」

セミ君の掘っている小さな音に誰かが気づいたようです。掘っていた穴の横から大きな目玉がのぞき込んでいます。

「わぁびっくりした」とセミ君が驚いていると

「よう、そこは狭そうだ。こっちへ来なよ」と黒い目が言います。

横に開いた穴に入っていくと、とても大きな空間が広がっておりました。そこには尻尾の生えた長い体に短い足のトカゲ君がいたのです。どうやらここはトカゲ君のお部屋のよう。そしてセミ君に興味津々なトカゲ君はいろいろ事情を聞いてきます。

「なんだって?下に行きたい?なんだかお前は他のセミ達とは違うようだ。おもしろそうだ。それならいいやつを紹介してやるよ」

そう言ってセミ君をお部屋に残したまま、トカゲ君はどこかへ行ってしまいました。セミ君が疲れて眠っていると、道路工事のときのようなすさまじい音で目が覚めます。ここも道路にされちゃうのかなと震えていると、ボコン。お部屋の壁が壊れて、茶色い毛で覆われた大きな頭がぬっとあらわれます。モグラどんの登場です。

「あぁ、こわさないでおくれよ」

モグラどんの背中に乗っていたトカゲ君が叫びます。

「すまん。にしたっておいらの”堀り”はすごいだろう」

モグラ君が鼻をふんと鳴らして、今度はセミ君を見下ろします。

「お主が潜りたがりのセミ君だな」

まるでモグラどんの地響きのような声にセミ君は震えながらも、こくりとうなづきます。なぜって。食べられてしまうかもしれないのですから。ところが

「おもしろいやつだ。特別に食わないでおいてやろう。さぁおいらの”堀り”を見せてやる。しっかりつかまれよ」

トカゲ君がセミ君をくわえて、モグラどんの背中の毛の中に押し込みます。するとセミ君の足とモグラどんの毛がからまってビクとも動けなくなります。特製シートベルトの完成です。

「じゃあな。俺は部屋を掃除しなくちゃいけないから。えぇっと、モグラどんはいいやつなんだけど、ちょっと...気をつけないと...」

トカゲ君がなにか話していますが、だんだん声が遠ざかっていきます。モグラどんが土の中を掘り始めたからです。ものすごいスピードで動くため、下に進んでいるのか上に進んでいるのかもわかりません。土ぼこりがたくさん落ちてくるし、振動でセミ君にからまっていた毛がほどけてきます。

「まって、モグラどん。まって」

セミ君の声はモグラどんに届いていないようです。あっという間に特製のシートベルトはほどけてしまい、セミ君は暗くてどこともわからない土の中に放りだされてしまいました。さっきいた場所よりも、暑くて空気が乾いています。これでは下に進んだのかどうかもわかりません。

それにさっきと違って一匹です。もうミミズさんも、トカゲ君も、モグラどんもいません。上に行く代わりに下へ潜り始めたセミはこの世で一匹だけかもしれません。でもここまでこれたのはセミ君一匹だけの力ではありませんでした。

「助けを呼ぼう」

セミ君がそうつぶやいたとたん、背中にひびが入ります。それから長い時間が経ってまもなく、まっくらな中、真珠のように透き通った立派な羽をつけたセミ君が出てきたのです。羽をこすり合わせると、ジジジと鳴くことができます。それを何度も続けていると、次第に音は大きくなります。

ミーンミーンミーン

ようやく大きな声で鳴くことができました。そのことがうれしくて、セミ君は何度も鳴き続けました。するとどうでしょう、上からどんどんと音が聞こえてきます。どうやら穴の外から聞こえてきます。

続いて「うるさいよ、子供達が起きちまう」と甲高い声が聞こえてくるではありませんか。

ドーンドーン、ボコリ。大きな土の塊が落ちて来てセミ君はそれを何とかよけると、まぶしい光が上から降ってきました。そこには黒と白の大きな鳥。セミ君が光に向かって飛び立つと、とても大きな世界が広がっておりました。地上です。下を見ると、穴を住み家にしている黒と白の鳥。それからその鳥の子供達。

「ありがとう!」

セミ君はそう言って広い世界へと飛び立っていきました。

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