ぺんぎんのお話

「ロボペン」

イラスト ロボットのペンギン

図鑑を見た子供達は言います。

「これが本物のペンギン?つまんないなあ」

図鑑に載っているペンギンは口から煙を出しませんし、一定時間空を飛ぶこともできませんからね。でも生き物が大好きなトム君は違いました。

「本物に会ってみたいなぁ」

トム君がそう言うとみんなは笑います。ロボットのほうがすごいのに、どうして会う必要があるんだと言うのです。どこにもいないのにどうして会うことができるでしょう。

そのうちにトム君は誰かに「本物のペンギン」について話さなくなってしまいました。でも興味まで尽きることはありません。図書館で図鑑を借りたり、博物館で剥製を見たり。色んな方法で「本物のペンギン」に思いを馳せます。

そんなある日のことです。毎週のように通っているトム君を見かねたのか、博物館の学芸員さんが声をかけてきました。

「特別に生きてたペンギンの映像を見せてあげようか?」

学芸員のおばちゃんにこくんとうなづくトム君。早速映写室という暗い部屋に案内されます。パイプ椅子がたくさん置かれてあって、小さな映画館みたいです。でもトム君とおばちゃん以外に誰もいません。

「本当は毎週そこのほら、スクリーンに流してたんだけどねえ」

目の前にぶら下がった白く四角い幕のようなところを指差しておばちゃんが言います。準備が整うと、そこに光が当たって映像が流れました。最初は何本も黒い線が出てきて、映像は乱れておりましたが、だんだんはっきりしてきます。そしてあの図鑑で見たペンギンたちがついに映し出されたのです。

左右に体を揺らしながら歩き、

氷の上を腹這いになって滑り、

仲間でおしくらまんじゅうみたいに、体を寄せ合って、

水の中を一直線に泳いでみたり。

スクリーンの中のペンギンたちはまるで生きているようです。

「どうだった?」

映像が流れ終わっておばちゃんがトム君にそう聞きます。でもトム君は首をかしげながら

「うーん、わかんない」と答えます。

「そっかあ、またいつでも見せてあげるよ。おいでね」

学芸員のおばちゃんに手を振って、トム君は家に帰りました。夜になって、部屋に1人。トム君はずっと机の上で今日見たペンギンを描いていました。でもなにやら首をかしげている様子。

「なんで僕は本物じゃなきゃだめなんだろう」

そのうち絵を描くのに飽きて、ベッドに入ると今日の疲れがどっと波のように押し寄せてきます。トム君はそのままぐっすり眠ってしまいました。

気がつくと、トム君は白い霧の中にいました。足元はとても寒くて、白いかたまりのようなものが無数に降ってきます。トム君はそれが昔話の中で出てくる「雪」だということにしばらくの間、気がつきませんでした。見渡すと、昼間の映像の中にいるようです。辺りは氷に覆われています。

向こうの方から黒い影がやってきます。もしかしてと息を飲んで見ていると、そうです、ペンギンの群れです。猛吹雪の中をゆっくり歩いてやってきます。トム君とすれ違っても、気にしないようです。その中の一匹は足を引きずっています。しばらくすると群れから離されて、その一匹が倒れこんでしまいました。トム君は駆け寄ると、そのペンギンを抱き寄せます。

「あったかい」

柔らかい毛の中にすっぽり両手が入っていきます。ペンギンは目を細めてトム君を見つめます。その黒い目はだんだん白く濁っていくのでした。群れが見えなくなって、ペンギンも動かなくなった時、また猛吹雪に目の前が真っ白になって、トム君はベッドの上で泣いていました。

デパートや遊園地では相変わらずロボットのペンギンを見かけます。ロボットは煙を吐いたり、空を飛んだり、挨拶をしてくれます。一匹のペンギンが足を引きずって、群れからはぐれたりなんてしません。

「また『本物のペンギン』とか言いださないよな?」

トム君の友達の1人がそう言うと周りは一斉に笑い出します。

「会いたいにきまってるじゃないか」

トム君がそう答えるとみんなびっくりした様子。なにせトム君はもう「本物」について話すのをやめたと思っていましたからね。

「なんでさ」

そのうちの1人がすかさずそう聞くと

「あたたかったんだよ」

そう答えたのでした。

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